読む政治:検証・薬害肝炎、首相の決断 「官の論理」超えぬ福田政権
◇「一律救済」一度は舛添案に納得/「議員立法しかない」迫った与謝野氏
薬害C型肝炎訴訟は、与党が国の責任と謝罪を盛り込んだ被害者全員の一律救済法案をまとめ、解決に向けて大きく前進した。今月20日に政府が示した和解修正案は原告団から拒否されたが、福田康夫首相が一転、議員立法での解決を表明し事態は急展開した。行政府の長と自民党総裁を使い分けた首相の決断。その過程で、官僚を抵抗勢力とはせず「官の論理」の枠内で国民の理解を得る−−という福田政権の特質が浮かび上がった。 毎日新聞 東京朝刊 ニュースセレクト 政治 無断転載禁止
●官邸VS公明
和解協議の舞台である大阪高裁への回答を2日後に控えた18日。斉藤鉄夫・公明党政調会長は官邸に電話を入れ、町村信孝官房長官に面会を求めた。
しかし、応対した秘書官は「自民党の方と一緒でないと困ります」とにべもなかった。
その日の夕方、斉藤氏と坂口力元厚生労働相(公明党)は、与党肝炎対策プロジェクトチーム座長の川崎二郎元厚労相(自民党)に同席を求め、ようやく町村氏と面会した。
斉藤氏「一律救済しないと、福田政権はもたない」
町村氏「行政は(一定範囲の被害者だけに国の責任があるとした)、司法判断を超えることはできない」
首相は、一律救済に難色を示す町村氏や二橋正弘官房副長官(事務担当)の進言を入れていた。二橋氏は小泉内閣の福田官房長官に副長官として仕え、福田政権誕生で官邸に呼び戻された元自治事務次官だ。「行政が司法判断を超えたことは一度もない」との二橋氏の信念は固かった。
官邸には厚労族幹部議員から「(裁判所はすべてに)国の責任があるわけではないと言っているのに、一律救済を認めたら、薬事行政がおかしくなる」との声が寄せられた。
●小泉政権と差
福田政権は小泉、安倍政権と比べ、官僚の論理に切り込んだり、官僚を抵抗勢力に見立てる発想はない。それは独立行政法人改革などでも、明らかになったことだ。
ハンセン病訴訟で、国が控訴を断念した小泉純一郎元首相のような決断を求める声もあった。しかし、政府の反応は「小泉さんの決断は国敗訴の司法判断を受けてのこと。今回とは違う」(政府高官)というものだった。
首相は「何とかしたいんだよ。でも税金を使うんだ。理由が説明できて初めて政治判断になる」と周囲に苦悩の色を見せていた。
舛添要一厚労相の立場も複雑だった。10月26日の閣議後に首相から「国民の目線で、早急に解決してほしい」と指示されてから、2カ月近くたっていた。
首相の指示を「お墨付き」ととらえ、「訴訟も含め11月いっぱいで片付ける」とテレビや講演で強気の発言を繰り返した。首相にも「一律救済でなければ腹を切りますよ」と決断を求めた。
回答期限前日の19日、舛添氏はひそかに官邸裏口から中に入った。官邸サイドが、報道陣の前で舛添氏が「辞任もある」と発言をエスカレートさせるのを恐れたのだ。
しかし、舛添氏の反乱は杞憂(きゆう)に終わった。
最終的に政府が決めた和解修正案は、裁判所が認定から外れた被害者についても「活動支援金」を給付し、補償総額は30億円というものだ。
首相は「これでいけるね」と満足し、舛添氏は「これは一律救済案だ」と胸を張った。
後に、見通しの甘さが露呈するが、政府側には、修正案は行政の枠を超えた政治決断という認識すらあった。
●谷垣ライン
原告団は20日、「一律救済ではない」と修正案を拒否した。
原告団が一律救済を求める以上、残された選択肢は、首相が自民党総裁という立場で、議員立法を主導することだけだった。
大阪高裁の新たな和解案が出たとしても、「一律救済」の文言が入る見通しはなかった。解決が長引けば、年金記録漏れなどで逆風を浴びる政権にとり、さらなる痛手となる。
このことに気付いていたのは与謝野馨・前官房長官だった。修正案の拒否を受け21日午後、与謝野氏は官邸を訪れ、首相に一律救済のためにどんな法案内容が必要なのか、個条書きにまとめた論点メモを示した。そして「議員立法で解決を図るしかありません」と首相に迫った。
与謝野氏は「政府が司法の枠を超えるべきではない。議員立法しかない」と主張してきた法務省幹部とも、太いパイプを持つ。
首相は「分かりました。ここまで詰まっているのなら」と与謝野案に同意。その場で谷垣禎一政調会長に電話し、「議員立法を検討してもらえないか」と指示した。
谷垣氏は、派閥の会長代行でもある川崎氏らと連絡を取り合いながら、原告弁護団の主張を、ほぼ丸のみする形で救済法案をまとめ上げた。厚労族は「一律救済にブレーキをかける立場」(厚労省幹部)でもあったが、首相の決断を錦の御旗(みはた)に押し切った。
「(和解交渉が決裂した)20日、行政と司法の限界が明らかになった。そこで初めて次の段階(議員立法)に移れることになった」 首相は周囲にこう漏らし、最後まで官の論理を尊重する統治手法にこだわった。
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- 2007/12/31(月) 05:45:00 |
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