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【連載企画「闘う臨床医」】(1)「小児医療の現場守る」自殺した父に誓う女性研修医の決意 産経新聞 主要ニュース 生活 からだ 無断転載禁止

【連載企画「闘う臨床医」】(1)「小児医療の現場守る」自殺した父に誓う女性研修医の決意 「小さないのち〜父から娘へ〜」。今年3月、こんなタイトルの漫画が女性漫画誌「BE・LOVE増刊号」に掲載された。
 過労自殺した父と同じ小児科医を目指す千葉智子さん(26)の体験をまとめた作品である。
 父の死を乗り越え、「日本の小児医療を守る」との遺志を継いだ娘の軌跡が描かれ、大きな反響を呼んだ。
 千葉さんの父、中原利郎さんが自殺したのは平成11年8月。
 自分が勤務する東京都内の病院の屋上から、真新しい白衣を身につけて飛び降りた。享年44。半年前にこの病院の小児科部長になったばかりだった。
 「少子化と経営効率のはざまで」。中原さんの執務机の上に、こう記された遺書が残されていた。
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  《経済大国日本の首都で行われているあまりに貧弱な小児医療。不十分な人員と陳腐化した設備のもとで行われている、その名に値しない救急・災害医療。この閉塞(へいそく)感の中で、私には医師という職業を続けていく気力も体力もありません》

 同僚医師が次々と退職し、死の直前には月4回だった当直が8回に増えた。

 当直をはさむと1回の勤務が32時間連続になることも多々あった。

 さらに管理職としての責任まで背負うようになり、疲労が心身ともにむしばんでいった。

 3枚の便箋(びんせん)に手書きでつづられた文面は、過重労働にあえぐ勤務医たちの「叫び」を代弁していた。
                    ■  ■

 千葉さんは当時、医学部進学を目指す高校3年生だった。

 「自殺は現実逃避」と父を許せなかった。

 医師になる決意は変わらなかったが、「父の自殺を思いだすから、小児科医にだけにはならない」と心に決めた。
 
 しかし大学の小児科の講義で聞いた一つの言葉が転機となった。

 「子供には発達があり、未来があり、病気が治る可能性がある」

 父が命をかけて訴えたのは子供の未来を守るためだったと、このとき初めて気づいた。

 「忘れようとしていた過去と医師の卵になった現在がつながり、未来を見つけた」と思った。

 「父と同じ小児科医になりたい」。娘から夢を告げられた母、のり子さん(51)は「娘まで失うのではないか」と心配で猛反対した。

 が、千葉さんは「父を死に追い込んだ医療現場を支えたい」と押し切った。

 平成18年、医師国家試験に合格した。大学卒業と同時に同級生と結婚し、昨年10月に長男を出産した。現在は研修医として神奈川県横須賀市の病院に勤務する。

 「子育てと仕事の両立は難しい」と千葉さんは言う。

 研修は分刻みのスケジュールだ。帰宅後も家事と子育てに追われ、就寝時間はいつも日付をまたぐ。職場では勤務時間を短縮し、当直も免除してくれているが、その分のしわ寄せは同僚たちにいく。周囲の配慮に感謝し、すまないと思う。

 「特別扱い」されている千葉さんに、指導担当だった男性医師は突き放すようにこう言った。

 「本当に教えたいことは、人手の足りない夜間や休日に起きる。でも、そのときあなたはいない。あなたに必要なのは子育てで研修じゃない」

 千葉さんは何も言い返せなかった。

 医療現場の過酷な状況は父の時代からまったく変わっていない。

 それでも決意は揺るがない。

 「国が医療費を抑制する中で犠牲になった父の無念を思えば、一度選んだ道を簡単に投げ出すわけにはいかないから」
                     ■  ■

 3月23日。千葉さんは父の遺骨が眠る東京都文京区の智香寺を訪れた。

 この日は父の誕生日。

 6カ月になる長男を胸に抱き、墓前で静かに手を合わせた。

 「お父さん、今度は私が子供たちの未来を守ってみせるから」

                   ×  ×

 日本の医療は今、危機的な状況にある。“崩壊”の現場で苦闘し、再生に向けて取り組む医師らの姿を追った。
                     ◇

 21世紀、世界は再び激動の時代にさしかかり、わが国もそれと無縁ではいられない。あらゆる分野で壁にぶち当たりながらわれわれ日本人はどこに向かおうとしているのか。現場に目を向け、日本の実像を描こうと思う。第1部は悲鳴を上げる医療現場と、それに闘いを挑む臨床医の姿を追いたい。