発信箱:「ひろしま」の力=広岩近広(編集局) 戦後世代は、いかに原爆を継承していけばいいのだろうか。時に考え込むことがある。高齢の被爆者の証言を折り畳み、惨状を切り取った写真と抱き合わせて、特集紙面をつくったのは3年前だった。
このとき目を背けたくなるような死者の写真を使った。朝食時に読む新聞にふさわしくないのではないか、そこまで踏み込む必要があるのか。議論した結果、原爆はこうして人間を殺したのだと、被爆60年の節目にあたって、もう一度刻んでおきたい、それが取材班の総意であった。 毎日新聞 東京朝刊 ニュースセレクト 社説・解説・コラム 社説 無断転載禁止
何枚かの写真は、今も脳裏に残っている。確かに衝撃的ではある。だが、それゆえに想起されるイメージが、突風に運ばれるみたいにかき消されたのも事実だ。むごいの一言で絶句してしまった。
ところが、まったく逆に、想像力を強く喚起させられた写真集に出合った。写真家の石内都さんによる「ひろしま」(集英社)である。写っているのはワンピース、ブラウス、スカート、セーラー服、学生服……。
いずれも広島平和記念資料館に所蔵されている被爆遺品だから、原爆の傷痕は見られる。しかし、むごさも暗さもなく、人肌にふれていた優しい温かさが、その明るい色調からにじみ出ている。
この服を着ていた少女はどんな子だったのか。きっと花柄が好きだったにちがいない。死にたくなかっただろうに−−。私は涙がにじんでくるのを抑えられなかった。
柳田邦男さんはこう寄せている。「原爆体験の風化を拒否する新しい表現方法の発見と言うべきものだろう」
今年の収穫である。
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- 2008/05/18(日) 00:07:00 |
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